ミリオンダラー・ベイビー

ああ、つらい話だ、医者は見るべきでない。無冠のチャンプ、いい面構えのマギー(ヒラリー・スワンク)に、見ているものの気持ちが入った途端に悲劇が訪れる。悲劇は突然おこるが、少しずつ少しずつ膨らんである日突然風船のようにパチンとはじけると岡崎京子はいったが、無敵で勝ち続ける彼女のキャリアとともに、悲劇も成長していった。脊損の患者が気切からレスピレータ接続されているのに、しゃべれるのはご愛嬌だとしても、「何のためにいきているのか」と声にならない声が夜毎病棟には満ちているものだ。彼女はそんな声なき声の具現者である。ダーティーハリーは法の限界を超え、法で裁けない本当の悪を裁いた。クリントイーストウッドは行政側に回った後、再び映画業界にもどり、最高傑作といわれるこの作品でもやはり、尊厳死安楽死の法の限界を飛び越えて見せた。これが正しいと思わないかと監督は観客に訴えるのだ。見ていて、いろいろな患者の顔が出てきて、平常心ではいられなかった。