運だとしかいえない

殴られたんだと思った。暗闇で衝撃をうけ、前額と口唇に鈍痛がおってやってきた。目を開けると自分が車を運転していて、道路脇の街路樹に突っ込んだのがわかった。フロントガラスは私の石頭でくもの巣になっていたが、額は割れておらず、唇がハンドル外傷で切れていた。事故当時の記憶は抜け落ちているが、居眠りだったのだろう、朝5時のことで人身にならなくて本当に良かった。頭部CTも異常なく、結局ちょっとした怪我におわった。

ゴルフ場の池の傍から先輩のボールを捜して、フェアウェイに戻るときに棍棒で殴られた感覚があり、「むぎゅ」っとなった。自分の頭でワンクッションし、バウンドしていく白球が見えた。ティーグランドに戻って暫定球を打った先輩が、またも同じところに打ち込み、見事私の頭頂部に当てたのだった。そして、やはり頭は異常なく、ぺこぺことあやまられながら、奇妙な幸運を感じていた。

ついているのか、ついていないのかわからない。何かと脇の甘い人生で、付け込まれる隙だらけなのに、先天性健忘症(そんな病名はないか。。)でそこいらに、財布やら、携帯やらおいてくるのに、大事にもいたらず、善意の人のおかげで失せ物は出てきたりする。師匠にも友にも多分恵まれている。無神論者でも、今まではついていたとなんとなく思う。

不公平は人生の慣わしで、もっとちゃんとした奴がついていないのも現実だ。鋭い衝撃が彼女を襲ったに違いない、楽しい旅行の一瞬を、魔がさすというのか、残された者達は理不尽を思うが、その瞬間を越えた後、彼女はその理不尽さと戦い続けている。

私には彼女の戦いを見守る義務があると思う。
いつか、彼女の心が平静を取り戻せるように願う。